随分昔の話。とある土日を兼ねてクラブ(チーム参加者含めて20数名)の忘年釣り大会を船長の兄さんの経営する旅館で忘年会を開いた時の事だ。
宴
その夜は船長も招待し、会も大盛り上がりとなっていた。釣り談議にも花が咲き、とても長い夜となった頃。
「今日はみんな無礼講!」と言うと酒も入り、上下関係の見境もなくなりタメ口も飛び出していた。縦社会である磯釣りチームが多い中、こういう事は異例でもある。羽目外すにはちょうど良いだろう。
俺が腰を据え飲んでいると(俺はお酒が全然強くない)、副会長がこんな話しを始める。
いいか~!お前たちはカモの捕り方って知ってるか?
いきなり若い連中に向かい、いかにも自慢げな顔で副会長が話し始めた。若者衆達は、「まずカモメを捕ろうとも思わないし、あのおっさん何をいきなり言い出すんやろう?(笑)」って顔で皆構えている。俺もその一人だった。
いいか~!俺が昔、カモメを捕る方法をじいさんに教わった事がある。
どうやらやったことはまだないようだが…こういう事を言っていた。
②エビを何匹か釣り針に仕込み、発泡スチロールの上に置く
③エサの入った発砲スチロールを海へ流す
するとカモは好物であるそのエビを食べて針にかかって釣れる。そんな方法で捕ってたらしい。
結局、若者衆は副会長の話をうわの空で聞いてたのは言うまでもない。だが真剣に聞いていた者が実はいたこと、誰も知る由もなかった。
宴も程よい時間となり、明日は大会当日だ。早起きしないといけないので、俺はお開きにして寝る事にした。
翌朝。みんな割と早く起きて既に顔を洗っていた。出された朝食を済ませ船宿に向かう。
忘年磯釣り大会開催
年の暮と言う事もあってか、いつもより混み合っていた。船長おまかせで各瀬に次々と人を降ろし、皆一斉に船長へありがとうの手を振っていた。
さて、始めるかね!
みんなに釣り開始を告げた。海水を汲み水温を確かめるためにさわってみるが真冬の海水はかなり冷たい。マキエを撒き続けるがエサ取り1匹湧かないレベルだ。そこで俺はみんなに
こりゃアカンわ!水温がかなり下がってるみたいやから、タナを深く攻めようかね?
周りを見るが、やはり誰の竿も曲がりそうにない状況。今日の水温だとかなり厳しい闘いだなと思い、しばらくは仕方なくマキエに徹することにした。なかなか状況は変わらず時間だけが過ぎていく。埒があかないので、早めの昼食を取ることにした。
俺は食べながら、若い子に
ホラ!あそこに、カモメがいるやろう。アレは我々が撒いたコマセがあそこできいてる証拠や。あそこまで、流せれば当たるかもしれんな?
昼食を終えた俺はコーヒーを飲みながらみんなに言う。
さて、ガンバルか~!
と気合いを入れ竿を握った。横にいた若い子がいきなりカモメがいる所へ超遠投をしだす。え、さっきの話を素直に実行したのかコイツは。
こいつ!まさか実行するとはな…凄い奴やな…
カモメのジョナサン
相変わらずコマセには何も出てこず、潮目に浮ぶのはカモメの群れ。ドンドンエサにおびき出されて数だけが増えてゆく一方。俺はもう無気力になっていた。
すると、その時
来た!!
の声で我にかえった。超遠投した彼の声があたりに響いた。かなり竿が曲っている。その場に緊張感が走った、周りのみんなも一斉に見守る。
バラすなよ!と思いつつ、激を飛ばす。
遠投やから慌てなくていいぞ!ゆっくりでいいから!
残りのみんなに仕掛けを上げるようにと言い、ギャラリーに徹する事にした。みんなが見守る中、彼の動きが少しおかしくなっていく。良く見ると
上向きに空に向けてリールを巻き始めているではないか?勿論竿も空の方向に曲がり始めた。
あぁ!これはやっちまったか!(笑)
彼の竿先にはカモメががバタバタと騒いでいた。
すぐさま、タモを用意し待ち構える。周り瀬の仲間達はゲラゲラ笑っている。こっちはそんな余裕もなく、カモメをタモに入れハリをはずさないといけない。何とカモメを寄せ、タモで捕獲に成功した。
それからが実は大変であった。カモメは必死で暴れる。いくつか手を噛まれながらもようやく針を外し離してやることが出来、ほっと一息ついた。
カモメの話が現実になるとはなぁ(笑)
みんな大爆笑。結局は良い釣果は上げられなかったが、忘れられない思い出となる日であった。
そんな超遠投で騒がせた彼も、今では沢山の弟子を引き連れ存在感のある素晴らしい釣り師になっている。やはり皆巣立っていく。我が子の活躍を見たり聞いたりするのは格別であり出会いこそ全てだと俺は思う。
この世は出会いこそ全てだろう
あの時あなたに出会えたから今の自分がいる
出会えなかったらまた違う人生を歩いてるだろう
完