誰しも得意な所やよく通う相性のいい場所というものがあるだろう。磯釣りに限らず、どんな釣りにおいて共通する事項だ。そこは自分にとって不安もなく平常心で臨める唯一の釣り場でもあった。その場所で通じるある程度のパターン構築などもできてくるのではないだろうか。
対峙
何ぃ~!何だ、この強い締め込みは!?
たまらず腰を落とし両手で耐える。しかし穂先は海中へと強く刺さってゆく。
もう無理!こりゃ竿がもたん!
と仕方なく押さえてたオープンベイルの指を離した。弾けるようにリールから糸が飛び出し、解き放たれた獣の如く一気に沖へと走りゆく。何と凄まじいパワーなんだ。スプールからでてゆく糸に目をやるとすでに半分ほどは出ていた。
ようやく奴が走りを止まった。
この時点で95%はクロではないと思った。おそらくイズスミ&真鯛のどちらかだろうと、もしかしてオナガ?
Kもその一部始終を見ていて
何すかね?あれ?
今はKの話なんか聞く余裕すらなかった。そろそろこちらから仕掛ける番だと起こしたベイルを倒し、竿を目一杯起こした。
奴が動いた左へ左へと走り出す。こちらも左に竿を倒し顔を向けようとするが敵もさるもの引っ掻くもの。すぐさま反転して今度は右へ右へとまた走る。竿を今度は右と中々間合いが縮まらない。
全身から噴き出す汗を感じながら
絶対とっちゃるわ!
と気合を入れなおす。
何とか少しではあるが糸が巻けるようになってきた。暴れさせないように竿でいなす。慎重に慎重に寄せる。物凄い今まで味わった事のない重量感。まさに砂袋を引っ張っているようなそんな感じがした。
顔をこっちに向かせなるべく竿で引っ張る。リールを巻くとテンションがかかり魚が暴れだすので極力竿で引っ張るようにしてる。
油断大敵
そんなこんなで何とか近くまで寄せてきたので後はタモ入れだなと後ろを見るとテトラの上でKがタモを持って微笑んでいる。
おお~すまん!もう少し寄せるわ。
浮かしにかかる際にくると、また突っ込んでくる。また竿でためる。何とか観念したのか、ようやく姿を現した。
ああぁ~!
やっぱりなぁ…
と自分でも呟いてしまった。
タモをくれ!
後ろを振り向いたその一瞬。奴は見逃さなかった。
後ろを向いた時に竿が下がったその一瞬。沈みテトラに回り込み生態反応が消えた。二人は呆然として真っ直ぐになった穂先を見つめていた。そこにはわずか残った道糸だけがむなしく風になびいていた。
完