全ては1人から始まった物語。今振り返ると30年以上前の話へ遡る。当時宮崎から関西へ単身上京し、俺自身が釣りにハマって様々な人たちと出会って成長していく様子を描いた物語を記していこうと思う。
石鯛釣り師との出会い
俺は小学生から釣りを覚えた。当時は何も考えずに、ただただ面白くて熱中していたが、そんな事も成長するにつれて興味も薄れていった。
学校卒業後、宮崎を離れ関西へと就職。やがて都会の暮らしにも慣れ仕事に没頭する日々が続いていた。そんな時間の余裕もない生活を過ごしていたある日の事。
ふと観たTVに釘付けになった。それは「和歌山の磯 石鯛釣り」のシーンである。その時、俺は強烈なカルチャーショックを受けた事を覚えている。
今までチヌ釣りしかやった事なかった俺の心に何か熱いものが込み上げてきた事を当時覚えている。その日を境にいつも「石鯛」の事ばかり考える日々を過ごした。人生とは何とも不思議なもので。まさかこんな近くに運命の出会いがあるなんて知る由もなかった。
俺は毎朝駅に出かけいつものようにスポーツ新聞を買っていた。休憩時間になると釣り情報ばかり見るようになっていた。そんな時、鉄筋工の親方がにやけた顔で

監督さん!釣りやんの?
とスポーツ新聞を見て言われた。

はい!まだ関西に来てから1度も行った事ないんですけどね…

あぁそう。じゃあ今度一緒に行く?

えぇ!ホンマですか?
俺は驚いた。あまりに唐突でしかもこんな身近な所で待ちに待った釣りができる日が来るとは想像していなかった。あまりに突然な事で驚きを隠せなかった。釣り談義をしていたらあっという間に休憩時間も終わり、親方から仕事が終わってから詳しい事はその時にと言われ別れた。
それからというもの、時計ばかり気になって仕事が手につかなくなっていた。こんな時の時間っていつもより遅く感じるものだなと改めて思わされる。それから何とか仕事もひと段落つき、現場事務所に戻ると進捗状況を所長に報告し急いで日報を書き終えた。

それでは!お先に失礼します!
周りにいた職場のみんなから

えぇ~!こんな早くに帰るのなんてデートかぁ~?(笑)
と冷やかされる始末。

あははは~!ヒゲの生えた人とご飯行くだけですよ(笑)
下には既に鉄工筋の親方が俺を待っていた。

お疲れさん。それじゃあ飯でも食いに行こか?
親方との会食
現場から出ると親方は手を上げタクシーを止め、二人を乗せて走り出す。車の中では釣りの話で花が咲いた。

話は変わるけど、監督さんの生まれは何処なの?

はい!自分は宮崎です。

おお~いい所やね!昔、新婚旅行で行ったな~!「日南海岸」と「鬼の洗濯岩」が印象に残ってるなぁ~。

まぁ…それ以外は本当に何もないですよ(笑)
と俺は笑いながら答えた。明石駅でタクシーを降り、1軒の焼肉屋に入った。

好きなもの何でも食べたらいいよ!
と親方は笑顔で豪快に言う。程よくアルコールも入り上機嫌で談笑しお腹いっぱいになったところで店を出る。しばらくタクシーが拾える所まで親方と一緒に歩いた。そして、タクシーに乗ると親方は

近くに部屋を借りてるからチョット見せたいものがあるから寄っていこう!
綺麗に磨き上げられた竿
駅から20分位走って着いたのは、閑静な住宅街。案内されたのはそんなには古くもない2階建ての1軒家だった。

お邪魔します!

あぁ、まぁ誰もいないよ!
中に入ると和室の間に通された。直ぐに目に付いたのが床の間に立並んでいる竿の多さだった。しかも今まで使っていた竿なんて、貧相なチヌ竿、とても俺の物とは比較にならなかった。親方は俺の心を見抜いたのか、その竿を全部俺の前に並べ始めた。

これはもしかして…石鯛釣る竿ですか?

せやね!石鯛竿やで!
手入れの行き届いたピカピカの竿を目で追った。

どれか好きな気に入ったヤツ選び!
と親方が笑顔で豪快に言う。

えぇ!石鯛釣り全然やった事ないし、しかも親方の大事な宝物やしそんな物を頂くのは…

いいんよ!10本20本持ってても、使うのはせいぜい1本か2本。床の間に飾っててもそれこそ宝のもち腐れ。使ってくれれば竿も喜ぶはず!
そんな熱い親方の気持ちに甘えさせてもらい、俺はその中から1本を慎重に選んだ。手にもってみるとやはり自分が持っているものとは何かが違う。握りやすさや竿の重みもなんだかちょうど良かった。

竿だけでは釣りにならないからこのリールを使ってみ。
押入れから1個のタイコリールを出して下さった。

すいません!何から何まで…

監督さんが釣りをするってもっと早くわかってれば…あの頃一緒に行けたのに。しばらくはコンクリート打ちがあるしちょっと暇作れそうにないしね、コンクリート打設完了してから行きますか?

ですね!ぜひよろしくお願いします!

今日はもう遅いから泊まったらエエよ!布団は何組もあるからね!

それでは甘えさせてもらいます!
酒のせいもあってか、心地よい眠りにすぐについた。あの日があってからは仕事にも熱が入る日々。毎晩、宿舎で親方から借りた仕掛け集の本を読み現場の前には池があるので、毎晩毎晩振り込みの練習をする日々が続いた。
ようやくコンクリート打設も完了してひと段落つき、もう頭の中は石鯛釣りの事で一杯になっていた。
終礼後、親方に「終わったら家においでよ」と言われた。仕事を全て済ませ、逸る気持ちを抑えながら車を走らせた…
続く…
https://gurenavi.jp/2017/0729223833.html