あれから10年以上も遡るが、せっかくの島野浦釣行も急な仕事で諦め、昼から近場の釣りとなったあの日。場所は俺のホームグランドである「宮崎県の日南海岸サボテン公園下」。
いつものホームグラウンド
よく行く地磯に仲間3人と出かけた話をする。
今日は島野浦じゃなかったん?
外せない仕事が入って断念したよ!
そうなんだ~それは残念だったな!
そんなやり取りをしているともうホームグランドが見える所まで来ていた。もう何十年も通い続けた。期待を裏切らないA級の磯である。
乗っ込みのシーズンに入ると、ここは40~50cmまでのクロ(グレ)が入れ食い状態になり、多くの釣り人達を楽しませてくれる。夜中0時にも関わらず駐車場には10台以上の車が待機してる風景は、人気のある釣り場を証明してくれていた。
釣行時は日曜日と言う事もあり、既に入れる場所もほとんどなかった。我ら3人は仕方なくいつもの休憩場所に腰を下ろしコーヒータイムとシャレ込む。暫くすると2人の釣り人が笑顔で我々に近づいてくるではないか。
こんにちわ!お久しぶりです~!
声をかけてきたのはよく会うSさん達だった。
調子はどうですか?
コッパ(小物グレ)がハンパないです!1発デカイ奴来たけど秒殺でバレましたね。ほかの人も同じくコッパに翻弄されてますし。
Sさん達はかなり苦戦を強いられた戦いだったようだ。
私たちは今日はこれで帰ります。コマセも切れたし後に入ってください!
と譲って頂いたので、お言葉に甘え我々も早速ポイントに入らせて頂く事にした。皆さん一人ひとりと挨拶を交わしA氏にコマセを頼み、我々2人は仕掛け作りにかかる。時計を見るとすでに15時を回っている。夕まず目のワンチャンスにかけて気合も入る。
さあ~!やるか!
釣り開始 何者かが…
さっきまでのコッパもいつの間にか姿を消し、コマセの周りには何も湧いてこない。
ええ~何で~?
さっきまで見えていた魚影すら見えない。「潮が変わったかな?水温が下がったかな?」等、そんなこと考えながら仕掛けを流す事1時間。太陽も山にかかり始めている。ここは山に太陽が隠れてからが、割と当たってくる。
先ほどまで穏やかに流れていた潮が少しづつ動き出し横流れになってきた。さっきから打ち込んでいたコマセにデカイ奴が浮いてきた。
デカイ!
何度もコマセを打ち込む。そのたびに浮き上がってはコマセを拾ってる。誰かが放った!
あのデカイ奴は何?
仲間にはわかっていた。その正体、70cm以上はあろうヒツオ(イズスミ)である。ここの居付きの主。恐らく何本のヒゲを持ってるだろうか。以前何回もやられてるアイツだ。その下に尾っぽの白い奴も見え隠れしている。
オオ~!クロもいるぞ!
その声にみんなの視線がコマセに釘付けになったのは言うまでもなかった。磯に活気が戻った。今まで世間話でわいわいがやがややってた声も一瞬にして静かになり、皆の顔付が変わったのは言うまでもなかった。
張りつめた緊張がこの場に漂い、見つめるは一点。己のウキのみだった。
来たっ!
静寂が壊れた…A氏の竿が海中に突き刺さる。たまらずレバーブレーキを緩める。勢いよく飛び出す道糸。走りを止めない奴。
なすすべもなくあえなく生体反応が消えた。ひらひらと風になびく道糸が敗北を物語る。興奮したA氏は仕掛けを作り直すも小刻みに震える指先で声を発する。
あれ、クロの走りじゃないよね…?
皆は口を揃えて言う。
間違いなく主の白メジナ(イズスミ)やね。あれは獲れん!ハンパない!
バラシたせいで暫く当たりのない時間が続いた。ようやく付け餌にもクロらしき変化が出てきた。エサがなくなるようになり殻だけ残っている。剥き身だけ吸いこんでいる。間違いなくクロの仕業である。
エサに工夫をしむき身だけにして当たりを待つ。しかも当たりがウキに出ないので全游動に変える事にした。OOなので潮にももまれるとシモっていく。手がえしを繰り返すこと早20分。
きた!
シモったウキにきいてみたすると竿引きで当たったリールは巻かずに竿でタメ起こす。奴は左へと走る。そこに行かれたらハエ根があり一貫の終わりだ。間違いなく良型のクロだろう。
何とかハエ根をを交わし奴の顔をこちらへ向けることが出来た。後はいかに取り込むか。頭の中で考えていた…
自分との闘い
奴を左におき竿を起しにかかった。しかしいつもならこんなに手こずらないですんなりとこっちの思うようになるのにと次第に焦りがでてきた。
ヤバイ!今までの奴らと桁が違う
そんな弱音を吐いてしまった。
その一瞬のスキを奴は見逃さなかった。海中に穂先が刺さった。たまらず腰を落とし必死に耐えるがそれでも奴の締め込みは強烈で次第に竿の限界近くまできている。
最後の締め込みにレバーブレーキを緩めた。そうするしかもう手立てがなかった。
本当はベイルを起しフリーで出したかったがとっさのことで出来なかった。未熟である。この時点で負けを感じた俺だった。今回は大いに自分の気持ちにも負けていた。
逆転するハンドル。テンションがかかるので中々止まらない。随分糸を持っていかれたみたいだ。
ようやく奴は動きを止めた。竿を起してみたが動きがない。おそらく根に張り付いたんだろう。
暫く待ってみたが状況は変わらずやむなく糸を切った。竿を上げて待っててくれてた仲間達が一言。
めちゃくちゃデカかったね!
やり取りの最中は夢中で気づかなかったが、終わった後に腕がもうパンパンになっていた。顔には汗が流れ落ちていた。
竿を置き仲間に場所を譲りいつもの岩に腰かけさっきの激闘を振り返り、自分の未熟さを改めて感じた一日だった。
完