無名瀬への挑戦

この話は随分昔になるが、まだフカセ釣りが普及してなく
メジナと言えば沈みカゴか上カゴが主流の時代の話である

 

元請会社から依頼のアパートの図面がようやく仕上がり壁の時計を見ると午前6時を少し回っていた

「さ~て行くか~!」

 

着替えを済ませ 1階の嫁の寝てる部屋の扉をそっと開けと
いつもの事とは言え しっかりとお休みになっていらっしゃる
起こさぬようにとそっと扉を閉める

 

 

「すまん!嫁よ許せ… じゃあ~ 行ってくるぜぇ」

 

 

と心の中で手を合わせた 台所に入り
おにぎりと昨夜のオカズの残りを弁当に詰め込み
そ~っと 勝手口から出る

 

 

車のエンジンをかけ静かに走らせる道
出勤時間には少し早いので割とスムーズに市内を抜けた
あとは通いなれた海岸線 うまくいけば7時過ぎには着くだろう

 

 

今日は天気も良く大した風もなく状況的にはBESTである
しかし1番気になるのは潮で いつも海岸線に来ると車から降りて
必ず海を見る事にしてる
それは海を見て潮の上り下りを確認するためである

 

 

宮崎県南はほとんど下り潮ではまず魚は食わない。
これも船長の教えでもある

 

 

「いいか~上りはなぁ~黒潮が入って
プランクトンや魚の好むものを運んで来るんよ
それに比べて下りは川の水や港の水とか濁りを運んで来る
しかも水温も下がるからなぁ~」

 

 

とよくそんな話聞かされたものだ
だから下りの時のボーズは許されも
上りでボーズでも食らったらエライ怒られたものだった
そんな船長の事 思い出しながら走ってるともう油津に入ってた

 

 

店の駐車場に車を止め店に入る
船長の所は釣り具屋もやっていて普段は奥さんが店を切り盛りしてる
俺「おはようございます!」

奥さん「おはようございます!」

 

と笑顔で奥さんが迎えてくれる

 

奥さん「外にエサ出してあるやろう?」

 

俺「うん!取ったよ」

 

そうこうしてると奥から船長がいつもの不愛想な顔で一言

 

船長「おはよう…行こか」

 

俺「うん!」

 

油津に通う事もう2年目…
今だにどこに乗りたいと言った事はなかった
と言うよりも一言

 

「今日はここでやってみろ!」

 

とみたいな感じ言われ 色んな瀬に乗せられた
誰も乗ったの見たことない瀬に乗せられ
「今日はここでやってみろ!」

みたいな感じが多かった
おそらく今日も昨日乗った所だろう?

やっぱり予感は的中した

 

「昨日はエサ取り随分出てたろうが?
そろそろコマセに慣れてメジナも出てくるはずじゃ
今日は潮の色もいいし とにかく がんばってみぃ!5時に迎えに来るから」

 

そう言い残すと帰って行った 3日続けての無名瀬
しかも初日は何も見えず 2日目エサ取りが ポツポツといただけで
2日続けてボーズを食らった
「え~!またここか~」
と心でブツブツ言いながらコマセ作りにかかる

 

マリンブルーの海を見ながら いつ来ても海はいいな~!
何もかも全て忘れさせる
そんな乙女チックな事を思いながら
作り終えたコマセを 瀬際に少し撒いて様子をみる
少しすると底の方に チラチラ小魚らしき姿が見え隠れする
右手を見ると程よくサラシが出て
潮すじも真っ直ぐ伸びてイイ感じだ
その先を良く見ると 真っすぐに伸びた潮目が
やや左にカーブしてるではないか…..

 

 

「おお~!上りが来てる」

 

 

と少し気合らしきものが湧いてきた
2日続けての下り潮だっただけに喜びはひとしおだった
さて 昨日は瀬際一点張りでやってはみたが メジナらしきアタリは出なかった

 

「よし、今日は潮目狙いでいこか….」

 

キレイに払い出してゆく 潮の際にコマセを 丁寧に打ってゆく
しだいにサラシの中にコマセが見える
そんな事何度か繰り返すこと30分…..

 

「さて やるか!」

 

と時計を見ると9時を回っていた
コマセ撒きの合間にセットした

 

愛用のマークⅡ(FX0.8号5.3)

 

関西に居た時に 石鯛師匠から頂いた貴重な竿だ
一投目はサラシに乗せて瀬際から流してゆく
次第に三連ウキは沖へ沖へと走り出す
ベイルを起し 糸を送くり出してゆく
次第にウキは見えなくなってくる
程よく流した所で 竿をしゃくってみるが生体反応がないので
リールを巻き取り
二投目三投目と手返しを続ける事30分あまり….
もうウキも見えなくなってくる
丁度潮がカーブする いわばこれが潮壁である
すると急にオープンベイルの糸がパラパラパラと出てゆく
「ん?当たり?」

 

一瞬スピードが変わった

 

「当たりだ!」生唾を飲んだ
まだまだ出ていくと思った時 奴は止まった
すかさず糸を指で押さえ竿でキイてみた
するといきなり
ガッンと竿に乗ってきた

すかさず竿を起しにかかる
何とか竿が起きてきた
起こしていたベイルを倒し巻きにかかる

 

ここは水深は約竿1本半と 少し浅めの瀬なので
決して油断は出来ない 糸は勿論絶対やれない
ギリギリまでため切るのが鉄則である
しかしながら使い慣れた竿ではあるが
なんせ08ときてるしキビシいな~と思いながら
いつもこれで 何とか捕ってきたので それだけが強みであった

 

 

ようやく手前まで連れてこれた
あとは取り込みだけだが
なんせ竿が柔いだけ(胴調子6:4調子)に中々浮いてこない
やっとリールの1巻きが出来た
竿を左に倒しそのままこちらに引っ張ると
奴はすんなりと左側に行ってくれた
「よし!あとは竿を起せば浮いてくるだろう」

 

タモを持ち徐々に浮いてくる奴を待った
魚体が見えた真っ黒な居付きのリッパなメジナだ
ようやく仕留めた貴重な1匹
何故か船長の顔が浮かびホットした

 

この頃の仕掛けと言えば
今みたいな繊細な半游動 全游動みたいな感じじゃなく
三連玉(円形の発泡ウキ赤、黄色)+飛ばしウキと言った
固定ウキ仕掛けが主流だった。

 

だから タナは2ヒロが基本の釣りだったし
それでも当時は入れ食いは当たり前
と言う日も多かった
しばらくすると潮も止まりいつものようにお昼寝の時間である

 

 

もうすでにスカリには8分目ほどのメジナが入っていた
どれぐらい眠ったんだろう?
ザワザワと騒ぐ 波の音で目覚めた
時計を見ると3時を少し回っているようだ
気合を入れなおし再び竿を握った

 

 

先ほどからすると随分潮壁が近づいていた
言わばチャンス到来である
今度はコマセを多めに何度も打ち込むようにした
潮目に乗せ程よく流れてゆくウキ
少しづつシモリ始める 潮壁に入ってる感じだ
そこで送る糸を指で止め少し張って待つことにする

 

 

その瞬間 ガッツんと穂先に乗った!

 

 

そのまま竿を起し2、3度合わせをくれる…
ギュウンと奴は走る…
ベイルを倒し右左と竿でいなす
なかなか糸が巻けない

 

 

「これは割とデカそうだ」

 

 

しかし1分たりと糸はやるつもりはない
弱気になったら負けだ!
これからが奴との勝負だ!
「竿を折るんやったら折ってみ~!」

 

繰り返すこと何分か…
少しづつリールが巻けてきた
しかしまだ油断は出来ない

 

 

慌てて巻いていつもバラしているからである
(リールを巻くと魚は暴れる)

 

 

こんな時間は長く感じて1時間にも思えるものである
やっとのことでウキが見える所まで寄せた
あとはどこでどう取り込むかかだ
しばらくするとようやく観念したのか
ゆっくりと身体を横にして無事タモに収まってくれた
「デカイ!」
思わず声とが出た
それからようやく笑顔になれた
俺は竿を置きタバコに火を付けた
タバコを持つ手が何故か
小刻みに震えていたのは何故?

 

 

気を落ち着かせ
残りわずかとなった時間ではあったが 竿を出すことにした
後半はイサキ混じりで4、5枚追加した
そのあと何度か掛けるも太刀打ち出来ない
正体不明のデカ版にあっさりやられ納竿の時間となった

回収の船に乗ると

船長「おお!出たな~!そろそろ出るころやろうと思とったわ」

満足げに微笑む船長につられて笑顔になった一日だった。

 

次回に続く…….